晩白柚ルポルタージュ

熊本に住む30歳の独身男性が旅行・キャンプ・カレーについて語ります

シェムリアップのにおい

2017年9月13日

カンボジア2日目です。

サマスさんから「4時半に迎えに来るから。」と言われていた僕は、朝から軽くシャワーを浴びるために、3時半からごそごそ動き始めました。

ゲストハウスの扉を静かに開け、外に出ます。あたりは暗く、日中は暑いカンボジアといえども、ひんやりとした空気が体を包みます。道路の脇にトゥクトゥクを停めてサマスさんが待っていました。こんなに朝早くから、ご苦労さまです。

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冷たい空気を切り裂いて、トゥクトゥクアンコール・ワットへ走ります。

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真夜中のアンコール・ワットには、日の出を拝まんとする観光客たちがすでに詰めかけています。5時に入場が始まり、僕たちは一斉にアンコール・ワットの中心部に向かって歩き始めました。内部にはなんの明かりもありません。段差につまづきそうになる僕の足元を、前を歩いていた外国人の老夫婦がライトで照らしてくれました。

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これは5時20分のアンコール・ワット。「日は7時前に登りきる」とサマスさんは言っていました。2時間近く、ひたすらぼーっと立ち尽くしながら、日の出の方角に向かってシャッターを切ったりします。

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6時を過ぎると、いよいよ観光客の数が増えてきて、四方から日本語が聞こえてきます。

シェムリアップに、こんなに日本人が来ていたなんて‥。」

僕のすぐ後方で、男性1人と女性2人の学生とおぼしきグループが、自分の大学のゼミの話やら、泊まっているゲストハウスの話をしています。僕の旅を通じたポリシーとして、一人旅の人には極力声を掛けよう、グループの旅行客には干渉しないようにしよう、というものがあるのです。しかし、久々に耳にした(とはいえ、せいぜい2日ぶりですが)日本語が嬉しく、つい声を掛けてしまいました。男の子は東京農業大学の1年生で、バンコクを数日間旅したあとにシェムリアップへやってきた身。2人の女の子は山梨の都留文科大学の3年生。3人とも、僕が泊まるタケオゲストハウスからほど近い場所に立地する「イキイキゲストハウス」にいるそうです。そこには日本人が多く宿泊しているらしい。

「そうなの?じゃあ、俺もタケオじゃなくてイキイキにすればよかったな‥。」

「一泊20ドル以上、しますけど」

「こっちの10倍じゃないか‥。」

わずかな時間でしたが、こんなおっさんと話をしてくれて、感謝です。

アンコール・ワットの内部は昨日のうちに十分堪能していましたが、サマスさんと7時半に合流を約束していて、まだまだ時間が残っていたので、涼しい朝の寺院散策をすることにしました。昨日、興味深く見ていたのは、回廊の中心部にいるお坊さんの少年です。彼に施しを与えると、お経を唱えながら腕にミサンガを結んでくれるのです。

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せっかくなので、僕も1ドルのお布施をしました。

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7時半、アンコール・ワットを出ます。日の出の光を受けたアンコール・ワットは、後光が差しているかのように神々しいものでありました。

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今日は、シェムリアップから少し離れた地域にある寺院を訪れます。「バンテアイ・スレイ」「ベン・メリア」「ロリュオス遺跡群」の3つです。特にベン・メリアはかなり遠いところに位置しているので、この3つを回って帰ってくるだけで、1日が終わってしまうそうです。

まずはバンテアイ・スレイです。アンコール・ワットからトゥクトゥクをとばして1時間ほどのところにあります。正直な感想を言えば、今回のカンボジアの旅を通じて、このバンテアイ・スレイが一番か二番かというほど、その様式美に僕は感動を覚えました。

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レンガのような石材(砂岩)を用いて造られており、全体的に「赤い」寺院です。バンテアイ・スレイの「スレイ」は「女」という意味。彫りの深い美しい彫刻と、全体の赤が相まって、非常に優しくて温かみのある印象を受けます。

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2017年現在は近寄ることができませんが、俗に「東洋のモナリザ」と呼ばれるデバター像が寺院中心部の塔の壁面に彫られています。1923年にフランス人作家のアンドレ・マルローがこれを盗み出そうとして逮捕されたという、曰く付きの像です。余談ですがアンドレ・マルローはシャルル・ド・ゴール政権下で文科相を務めていました。小説家が文科相に抜擢されるなんて、フランスはなんと粋な国なのでしょう?

 

バンテアイ・スレイの次は、ベン・メリアへ向かいます。さらにここからトゥクトゥクで1時間以上かかります。

ベン・メリアに着いたのは11時。4時半から動きっぱなしだったので、さすがに腹の虫が鳴き始めました。寺院の内部に入る前に、レストランで小腹を満たすことにします。

注文したのは、イエローヌードルスープと、アンコールビール。昨日食べたホワイトヌードルスープは、米の麺を使っていました。このイエローヌードルとは、いったい何を原料としているのでしょう?

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ベン・メリアは東のアンコールと呼ばれるほど、造営当時は重要な意味を持った寺院だったようです。しかし今となっては、建物の大部分が崩壊していて、言葉は悪いですがガレキの山と化しています。ベン・メリアにロマンを感じて、アンコール遺跡群の中で一番好きだという声も聞いたことがありますが、正直に言って僕はあまり興味が湧きませんでした。繰り返しますが、ここはガレキの山です。

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ベン・メリアから再び1時間以上かけて西へ戻ります。今日の最後は、「ロレイ」「プリア・コー」「バコン」の3つの寺院から成る、ロリュオス遺跡群です。ロリュオスは、アンコール地域に機能が映るまで、王都として栄えた場です。

まずは、プリア・コー。

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次いで、バコン。バコンに着くと、日本なら小学生ぐらいの、バナナ売りの女の子が「オニーサン、バナナ!」としつこく近寄ってきます。こういう場の子たちは、なぜ僕が日本人だとわかるのでしょう?僕が発する何らかのにおいで嗅ぎ分けるのでしょうか。そして、よくもまあ日本語を知っているものです。「いらん、いらん」と言って追い払いますが、彼女たちも怯まず追いかけてきます。

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最後はロレイ‥のはずだったのですが、バコンを出て国道を西にトゥクトゥクを飛ばすサマスさん。ロレイを忘れています。しかし、僕ももはやどの寺院も同じに見えてきたのに加え、朝が早かったために猛烈に眠く、もはやつっこむ気力も起きないまま、トゥクトゥクの中で眠りこけてしまいました。

 

「やあ、プサ・ルーを見ていくかい?」

「プサ・ルーってなんすか?」

国道をシェムリアップ市内へ戻る途中、プサ・ルーなる場所の前でトゥクトゥクを停め、サマスさんは言いました。シェムリアップ市内にある「オールド・マーケット」が観光客に人気の市場だとしたら、このプサ・ルーこそ、シェムリアップ現地の市民たちの生活の基盤となっている市場だそうです。その規模はオールド・マーケット以上。

「ここで待っててやるから、見てきな。きっと面白いはずだよ。」

プサ・ルーの中に一歩足を踏み入れると、すれ違うたびに肩が触れ合うほどのたくさんの人びとの熱気と、雑然と置かれた商品の山、そして無数に飛び交うハエの群れが目に飛び込んできます。

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市場の奥深くへ入り込んで行くと、生肉と発酵食品を並べた区域に辿り着きます。ぶつ切りにされ、とりとめなく並べられた生肉。それに群がるハエ。それを、どこを見ているのかわからない、ぼんやりとした目つきで追い払うおばさん。そこに漂う、鼻がもげるほどの強烈な臭い‥。頭の中に入ってくる情報量が多すぎて、僕は完全に圧倒されてしまいました。これがプサ・ルーか‥。

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鼻の穴の奥までこびりついた臭いに、僕はくらくらしながら、サマスさんの元へ戻りました。

「どうだった、プサ・ルーは?」

「‥‥‥。」

プサ・ルーの前に出ている屋台で、サマスさんに焼き鳥をおごってもらい、その場を後にしました。

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ゲストハウスに戻り、シャワーを浴びて、夕食へ。昨日も利用したリーリーです。メニューに「カレー」の文字を見つけ、思わず注文。カンボジアの大衆食堂で食べるカレー、いったいどんなものなのでしょう。

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カレーには、サツマイモのような、何かよくわからないイモがゴロゴロと入っていて、これが僕の中ではいただけませんでした。そもそも、日本で食べるカレーにおいても、ジャガイモを入れるのには反対派の僕です。イモを入れると、カレーにイモが溶けて全てがイモ味になってしまいます。このカンボジアカレーも例外ではなく、どこを食べても、なんとなくパサついたサツマイモの味がしました。

「今日のリーリーはイマイチだったな‥。」

アンコールビールを飲み干して、僕はリーリーを後にしました。

 

3日間が有効のアンコール・パスが使えるのは、明日で最後になります。明日は、シェムリアップ市内で見落としている、細かい寺院群を案内してもらうことになっています。そして僕は、タクミくんという1人の日本人青年と出会うのでした。

 

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